とある北の町。
山の奥のバンガローに、
クマのねぶくろがポツンと置かれていました。
「クマのねぶくろ」というのは結果的にという意味ですが、
タイトルでもあるので早めに言っても罪じゃないと思います。
とある北の町。
山の奥のバンガローにポツンと置かれていたのは、
クマのねぶくろでした。
ふもとの小さな町。
ある日つまらないことでお母さんとケンカして家を飛び出した少女。
思春期にさしかかった難しい年代の少女。
うさばらしに森を散歩していると偶然にもその秘密の場所を発見し、
もしかしたらピカピカのくまが近くにいるかもしれないわ、
と少女は目を丸くして辺りをキョロキョロ見回します。
クマはちょうど茂みに落ちた木の実を拾い集めてるところでしたが、
にんげんの匂いがしたものだから、本能で毛が逆立ちます。
これは猟師かしら?と警戒しながら、
おそるおそる木陰からバンガローを眺めます。
でも、どうでしょう!!
愛くるしい少女がキョロキョロしてるではありませんか。
クマはそれを見てホッと胸をなで下ろします。
それからクマは観察します。
ほっそりとした手足、
赤いワンピース、
赤いほっぺ、
よく動く大きな黒い2つの目。
無邪気なクマはたちまち少女に恋をしてしまいました。
クマはいてもたってもいられず一目散に走り、
拾い集めた木の実を交換にして、
シカのみち子さんに甘い花をゆずってもらいます。
とってかえすとまだキョロキョロしてる少女の方へ近づき、
傷つけないように爪を隠し、そっとうしろから肩を叩くのでした。
怖がらないで、恐れないで・・・だいじょうぶ。
少女は死角にいたクマを目にし一瞬ぎょっとしましたが、
クマが甘い花を少女にそっと差し出しはにかむと、
そのキュートなポーズに思わずほほえんでしまいました。
そして緊張がほぐれたのと、愛くるしさに胸を打たれたのとで、
少女もまた恋におちるのでした。
そもそもつまらないことでお母さんとケンカして家出した少女は、
山の向こう町の腐れ縁のヤツのねぐらにとうぶんやっかいになる気でいましたが、
クマと出会ったとたん急に心が変わりました。
誘われるがまま、甘い花に囲まれた濃密な夜にクマと二人、
あのバンガローにポツンと置かれたねぶくろにしっぽりとおさまり、
何度も、何度も・・・何度も。
長いようで、はかない夜を、
狂おしく、狂おしく、過ごしたのでした。
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