こいつは一体ナニを言ってんだ…と、
幼なじみの少年を前に少女は思いました。
ゆうべ、あんな優しく、狂おしく守りあったカラダも、
交わしたキスが全部うそだと?
クマが本当はわたしを切り裂いて血のついた肉を食べたかったって?
「…うそだネ」少女は少年に言います。
「…ばかじゃん」
少年は何も言いません。
じっとひざを抱えたまま暖炉を見つめています。
「どーしてなにも言わないの…?」
少女は少年を問い詰めます。
ねー…なにが起きてるの?
これは現実なのか?
実際のところ少年は想定していたシナリオが狂ってるので、
アドリブが効いてないだけだったのですが・・・。
少女はすっくと立ち上がって部屋を見渡します。
小さく頑丈なバンガロー。
温かいオレンジの炎。
でも放置されたままのクマのねぶくろ。
わたしは今なにを思えばいいのかしら。
ここで泣くのはたやすいね。
でもちがう、それは解決じゃない・・・それは解決じゃないんだって。
あたし、そんなに弱くないはず。
弱くないでしょ?
「あたしいろんなこと努力したのに…」
少年は何も言いません。
「ねー、ちがうの?あたしナニか悪いことした?」
見下ろす少年は目を閉じたままじっとしています。
玄関に目をやる。
クマは帰ってきません。
実際に、現実的に帰ってないのは事実です。
少女は床にペタンとしゃがみこみ、
うつむいたまま目を閉じて声を出さず泣きました。
クマが消えた事実を否定しようとするだけバカみたいじゃんか。
分かってるけど理不尽じゃないか・・・。
少女は静かに肩を震わせます。
スルっとした白い手は痙攣のように震えています。
少年は黙ったまま、それを横目でチラチラと見ていました。
(オレが殺したんだよ…てかお前いい女になったよな・・・ホント)
少女がカラッポになり狂うまで黙ってることは、
最期の一言を重く、重く、するための少年の残酷なシナリオです。
(ククク・・・想定内だぜファッキンめす犬・・・あとでたっぷりと絞り取ってやるぜ、
その生意気な毒をよ・・・)
少年は心の中でマゾのように冷酷に笑いました。
でも外見はクールに・・・狙い済ましたように少年は少女の腰にそっと手を置きます。
もう少女を守るなにもここにはありません。
少女は静かに嗚咽し、少年の肩袖に小さな鼻を押し付け、やがて大粒の涙を流しました。
その時、少年は腹の底から熱いものが込み上げてくるのを感じました。
右手しか知らない少年は人知れず勃起しました。
(やべー立った!がまんがまん・・・)
やがて時計が午前2時の鐘を小さく鳴らします。
少女はまるで眠っているように、少年にもたれたままです。
…やがて少女は少年にそっと「抱いて」と言いました。
少年は頭でノルウェーの森のサビを唄いました。
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