小石に触れる。
手のひらで軽く量るようにくゆらせ、そっと閉じ、開く。
小石は、やがてかすかな熱を発し、ある臨界点にいたる瞬間にその抵抗を解き、表情を一変させる。
それはもはや固体ですらない。
少年に、石はまるで透明なミドリ色のゼリーを思わせた。
それは呼吸し、身を揺らすようにして躍動する。
そして封じていた物語を再び唄い始める。
小石は少年に唄う。
なぜココにいるのか。
ナニを見たのか。
そして、なぜクチをつぐんだのかを。
それは静かに、かすれるような声で、そっと語りだす。
ある年、少年は大きな地震を恐れた。
その一週間の後、近県の沿岸部を震源とするM5.5の地震は隣町の木造家屋の20%を倒壊させ、
40人を超える老人を圧死させ、焼死させた。
またある年の5月から9月にかけて、
少年はべつべつの場所に3体の遺体があることを姉に教えた。
都内に住んでいた20代前半の娼婦を除き、
残った2体は既に白骨化しており身元はいつまでも不明だった。
母親に怒られるまで、少年にそれはごく自然な日常だった。
石はいろんな秘密を教えてくれる。
ランドセルと空の弁当箱を母に渡すと、
そのまま近所の海岸にかけて行き、
暗くなるまで何時間も小石を集めている毎日だった。
心配になった母親は少年を医者につれていく。
医者は少年の理解者の一人だった。
「お子さんに異常なんてありません。むしろ7歳してはかしこいくらいですよ」と彼は母親に説明した。
「うまく言えないことを人に説明するというのは、それはそれで難しいことですから」と。
とは言え子を生む以前から探していた母(つまり少年のおばあさん)の手紙を少年が手渡してきた時、
彼女は少年に恐怖を覚え、自分の思ったことを簡単に人に話してはいけない、としかった。
彼女はそのことでイライラしたし、育児に参加しなかった夫の忙しさをののしりもした。
父親は黙ってタバコを吸っている。
普通でないことは彼女にとっては許せないことの一つだった。
母親に怒られて以来、少年は小石と話すことをやめた。
基本的に環境の変化には無関心なくらい素直な性格の子だった。
それと同時に少年は話す行為そのものもやめた。
話すべき言葉は初めから何もないように。
無口な少年は海岸へ行く代わりに今度はベランダに座り何時間も空を眺めるようになる。
晴れた日も雨の日どちらともつかない曇った日も、洗濯物の合間にちょこんと座り、
シャツの向こう側に見える空を夕食に呼ばれる時間まで眺めるようになった。
何を見ていたのかは誰もしらない。
何を聞かれても少年は首をかしげ、
井戸の底を上からのぞき込むような目をするだけだった。
中学に上がると少年は少しずつ文章を書くことを楽しむ。
無限に見えるコトバの配列は、その組み方で人の感情を揺さぶるチカラを放つ。
少年にはそれが面白かった。
媒介すべきコトバはすでに自分の中に沈殿している。
それが意図する何かは少年にはうまく分からない。
でもそんな風にして少年は世界に目を向けるようになる。
~Non-Title~
はじまりは大きな夜
だだっぴろい孤独
ボクらはみんなそこから来た
なにも持たず
なにも語らず
存在は光
ココロ開いてボクら世界を描く
たくさんの世界
一つになんてなれない
だから
誰もキミを否定しない
キミも誰も否定しない
一つじゃないから
争う意味はない
小さな丘の上
晴れてるのに雨が降りそそぐ
遠くに見える町を
手のひらで包む
おしまいは約束
長い永い果てにボクら一つになる
おしまいとはじまり
ただそれが繰り返す
鳴り止まぬファンファーレ
愛のスーパーノバ
ボクらはボクらを超えて
次の約束の地めざして…
~ハレルヤ~
ベランダに座ることは習慣としていつまでも残った。
コトバは相変わらず少ない。
でもそれが誰かを不幸にするわけではない。
少年は宛てのない文字をメモに書き連ねていく。
バッグの中にたくさんのコトバ。
宇宙
~ハレルヤ~
たった一つだけの約束を目指して…
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