ぼくはひとりだった。
ながいこと、ずっとひとりだった。
やさしくてあたたかいおかあさんも、
いさましくゆうかんなおとおさんも、
いもうとのエイミーもみんな、
にんげんにころされて肉と皮になりました。
てっぽうで打たれたときの赤い色をおぼえています。
だから、ぼくはいまも肉をたべれません。
木から実をもらったり、
キノコをバターとはちみつで炒めてたべるのです。
ぼくは字がよみかきできないので、
生きてくにはぐたいてきなモノをつくります。
かたちでしめすのしかないのです。
ぼくは山のどこに美しい水があるかを知っています。
みつばちにぐたいてきに水をはこんでやり、
ぼくはみつばちたちに黄金のミツをもらいます。
ロイヤルなゼリーです。
にんげんとはほとんどかかわりません。
だっておとおさんもおかあさんもいもうとも殺されたんですから、
かかわったらぼくもころされてしまうじゃないかっ!
だからにんげんはこわい動物です。
ぼくはずっとこうしてしずかに生きてればいいのです。
でも、ある晴れた午後にぼくはにんげんの女の子を好きになりました。
ぼくのうちのまわりを唄いながらきょろきょろしていた、
れっきとしたにんげんの女の子です。
ぼくは肉をたべないのでもちろんおそいませんが、
たいていのにんげんはぼくをみると逃げますが、
あの娘はにげませんでした。
ぼくが彼女に花をあげると、女の子はありがとうと言ってまぶしくわらいました。
夕食の時間になるとぼくらは、はちみつでつくったパンとアイスクリームをたべました。
彼女はおいしそうにペロッと全部たべると、また、とてもまぶしくわらいました。
そして服を脱ぎ、ぼくに抱いてといいました。
ぼくはにんげんの女を抱くのははじめてでしたが、
ふしぎにうしろめたさ、というような、なんていうか、
まちがったことをしてる気がしませんでした。
そんなにおおくのメスを抱いたことがあるわけでもないですが、
にんげん、いやこの娘はしっくりきました。
ぼくはひとりだった。
ながいこと、ずっとひとりだった。
ぼくは字がよみかきできず、
ぐたいてきなモノをつくります。
でも、この娘となら、もっとちがうなにかをつくれそうな予感がするのです。
みんな笑うかもしれない。
クマとにんげんがキスをするのは、どこかちがうのかもしれない。
でもかまわない。
ぼくは、たぶん、彼女を愛してる。
ずっと守りたい。
愛してる…。
そんなこと考えながら、
今ぼくは彼女のねがおをじっと見ているんだ。
暖炉の火を消す。
そしてぼくはこの薄い皮膚と肉がこごえてしまわないようにって、
そっと大きな毛皮で包み、眠る。
眠るんだ…。
さぁ、おやすみ。
愛してる……おやすみ。
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