クマは遠くに行ってしまったんだ。
暖炉の前で少年は静かに少女に伝えました。
「彼はもう帰ってはこないよ」と。
もちろん帰れなくしたのは彼自身ですので、
これは本当はとてもしらじらしい嘘なのですが、
ここは100歩ゆずって少年の意見を聞いてみることにしましょう…
~ 少年の話したこと ~
きのう親戚からたくさんイチゴが贈られてきたんで、
キミの家におすそわけに持っていったんだ。
そしたらおばさんがキミのことでイライラして仕方ないって言うから、
「彼女と話させてくださいって」って言ったらさぁ・・・、
キミが森に逃げてしまってて帰ってきてないって言うじゃないか。
だからぼく心配になって、迎えに来たんだ。
森は事件が多いからね…底なしの沼とかもあるしさ。
ここのコトはケモノたちが教えてくれたんだ。
「この辺に女の子が通らなかったかい?」って聞いたら。
「ああ、女の子はあっちの方へ言ったよ」ってみんな教えてくれた。
「そうそうあっちだ」って、カラスや野犬たちがね。
そんな風にしてようやく今ここに辿り着いたってわけさ!
(しめしめ、スジはOK)。
で…とても話しづらいことなんだけど、
途中で切り株に座ってるクマに出会った。
なぜかしら、とても辛そうにしててさ。
クマだからぼくだってもちろん怖いよ?
でも、ぼくにはほっておくわけにはいかなかったんだ。
「どうしたの?」ってぼくは聞いた。
そしたらクマは「間違ったことをしてしまったよ」ってぼくに言うんだ。
「間違ったことって?」
「…オレは人間の女を汚してしまった・・・」ってね。
ぼくは一瞬でキミのことだと思った。
だから詳しく聞かせてくれないか?と言ったんだ。
~ 少年が言うクマが話したこと(また聞きのまた聞き) ~
オレはケモノだ。
肉を食うケモノだ。
昨日、オレは一人のにんげんのメスを家に招き、犯した。
自分のモノにしたんだ。
簡単に言えば肉体的に犯した。
まぁそれなりに楽しめたし手ごたえもあったからそれはそれでよしとしよう。
ことが終わると少女は満足してスヤスヤと眠った。
なんて無防備なんだろう。
オレはケモノだ。
肉を食うケモノだ。
わかるだろ?
オレは人間のはらわたをすすりたい。
真っ赤な血を腹いっぱいに飲みたくて仕方ない。
いいクマを演じて油断させてしまえば、殺ろうと思えばいつでも出来る。
簡単に殺せる。
でもね…どこか違うんだ。
あの女はオレの中の何かに訴えかけてきやがる。
とても懐かしく、いとおしい何か。
なぜかオレには彼女を殺せない。
殺すのは違う気がする。
でもオレの中のケモノは若い肉を食らいたい・・・。
こんな辛いことはない。
オマエにオレの苦しみなんてわからないだろうよ。
気が狂いそうなほどの苦しみだ。
中断されたマスターベーションみたいにネ。
クマはそう言ったよ。
~ 再び少年の話し ~
だからぼくはクマに言ったんだ。
「彼女はぼくの大切な人だ、食うならぼくを食えばいい」と。
そういうとクマは咆哮を上げぼくに襲いかかってきた。
でもぼくは目をカッと見開いて、逃げなかった。
(うそだ、ばか)
そしたらクマはすんでのところでぼくの首からキバを外し、
「キミの勇気に超感動したよ」と言った。
自分は去る、彼女を迎えにいけ、幸せにするんだ、と。
クマが最期にこの場所を教えてくれたんだ。
(なんつってね、言いすぎかな・・・)
クマが去ったあと、
ぼくは切り株に座ってずっと悩んでいた。
真実をキミに伝えることでキミを傷つけるのがこわかったんだ。
でもね、結局はキミを迎えにいこうと思った。
ぼくがこのままじっと考えてたってキミが孤独であることは変わらない。
キズつくならキズついてもいい、ぼくはそれを受け止めようって、
そう思ったんだよ。
(うっしゃ・・・)
少年はそこまでを話し、
目を閉じてこころの中で(ひひひひ…)とほくそえむのでした。
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