ある晴れた朝。
少女は衝動的にカツカツ歩き、
街をすり抜ける電車に乗りました。
目的とか理由などではなく、
ただ街を抜けること意味があるように思えたのです。
あたし、生きてていい?
どこを、歩けばいい?
でも答えなんて始めから決まっています。
森と湖に囲まれた北部地区の小さく美しい町、ホームタウン。
コウインヤノゴトシ?
いつのまにか少女は27になり、16で家を飛び出してからすでに10年以上が経過していました。
庭のサボテンどうしたかなあ・・・。
おかあさん、もう死んじゃったかなあ。
少女はうつむきます。
それはまるで隣りの席から見れば、
何か思い出して一人で笑うように、
幸せを楽しむように見えます。
街を飛び出した衝動はそのまま・・・。
少女はほぼ1年ぶりに涙を流すのでした。
いくつか電車を乗り換えて街から離れると、
空気や緑の色が変化してゆくのが明らかに分かりました。
電車が進むにつれ少女は本当に久しぶりに自分を取り戻せたような気がしたのでした。
やがてホームタウン。
変わらない駅に降り、坂道を下り、少女は家に帰ります。
でもノックなんてしません。
だまったままキッチンを通り過ぎ、部屋に荷物を放り出したら、
少女はくるりと振り返ると森に向かいました。
自分を縛り、影響し続けるもの。
結局のところこの地表の上で少女が眠れる場所は他にはないのです。
クマのねぶくろ。
古い理不尽は今も重く、重く、少女を過去へ否応なく引きずり戻します。
それにあらがって生きるのは不自然でしょうし、もはや限界にも思えるのです。
だからこそ、わたしはここにいる。
わたしはここにきた。
だから何もとめない。
もう、わたしはわたしを縛る必要はないのよ。
少女は森に向かいます。
あのころと同じ。
軽やかなステップを踏み、草原を抜け、丸太を飛び越え、
くもの巣を払いのけ、進んでいきます。
この先に木の家があるはず。
ところどころ崩れてるかもしれない。
でもそこがわたしの帰る場所。
意味・・・かけがえのない、意味。
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