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【クマのねぶくろ】#9(クマ殺し動く)
2007 / 07 / 04 ( Wed )

森のバンガロー。
あたたかなねぶくろの中、少女は目を覚ましました。
部屋の中は暖炉でコトコト揺れたスープの甘い香りで、
その隅っこまでいっぱい幸せで満ちています。
少女は少し迷ったあと「えいっ」と身体を起こすと、
跳ねるように窓に近づきチカラいっぱいに開きます。
朝一番の太陽が目に染みる時、なぜか少女はうれしくてうれしくて、
本当にたくさんの涙をながしました。
そして空気を胸いっぱいに満たし、クマを想い、やさしく微笑むのでした。

少年は泉のほとり、中央でみつばちの巣が灰となり、クマが狂気の沙汰で沈み、
森が静寂を取り戻すを見届けたあと、スガスガしい気持ちでバンガローに向かいました。
これですべてはあるべき形へ向かうはずだと少年は思いました。
クマと人なんて食うか食われるかしかないね。
迷いも後悔もない。
「ノーモアクライ。大丈夫、助けに来たよ」と彼女に言おうかな。
少年も笑いました。

少女は充分に温まったスープを暖炉から下ろし、洗濯をはじめました。
部屋を掃除しながら、正午までクマの帰りを待ちます。
きっと張り切ってあたしのために何か美しいものを探してるんだわ・・・と、胸をときめかせながら。
でもお昼を過ぎてもクマは帰ってきません。
少女はスープとパンをボソボソと一人で食べることにしました。
それから部屋にあったCD(たいていは少し古めのPOP)を聞きながら、
歌詞カードを見ながら唄ってましたが、山肌に太陽が沈みかけ、
部屋が少し寒くなっても、クマはいっこうに帰って来ません。
さすがの少女も、いったい何が起きてるのだろう、と心配になりました。

・・・夜になり、少女は孤独で泣きました。
ねえ、あなたはどこへ行ったの?
少女は誰でもない誰かに尋ねます。
でももちろんのこと誰も何も答えてはくれません。
少女は静かに涙を流します。
部屋は暖炉のオレンジは、それでもやさしく少女を暖かく包みます。
そのときふと少女はクマの声を聞いた気がしました。
遠くではなく、近くで。
少女はハッと振り返る。
それは声ではない何かを闇の中で訴えるのでした。
わたし寝てるのかしら?
そのとき、ふと玄関のドアがコンコンとなりました。
「あ!クマきた!」
少女は強がってなんでもない風に見せようとし、
涙のあとをそで口でカサカサとこすって消してから、
元気よく玄関を開けました。

すると・・・どうして?
近所の少年がニヤニヤしながら立っていました。
少女はあまりにも意外だったので声が出ません。
じー・・・と少年を覗き込んでるだけです。
「や、やぁ」と、いたたまれなくなって少年は右手を上げました。
「おう、意外じゃんか」と少女はわざと陽気に応えました。
そして少しの沈黙のあと少年は静かに少女に伝えました。
「クマは、遠くに行ってしまったよ・・・」
少女は黙ってうつむきます・・・。
なぜ、でも、どうして、でもなく。
少年は少女が心で泣いているのが分かりました。

「少し話したい。入っていい?」

うつむいたまま小さくうなずくと、
少女はクマ殺しの少年をバンガローに導きました。

 

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