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14:14:57 | | page top↑
<Rain_#1>
2007 / 07 / 04 ( Wed )

口もつけてないコーヒーに目をやる。
銀のスプーンはほんの少しだけミルクをかき混ぜると、
役を終えたエキストラのように、
舞台袖でぼんやりとエンドロールを待っているように見えた。
壁掛けの時計は15:00を打つ。
そしてあの人はわたしを待ち続けるんだろう。
無邪気で他愛のない誰かの出来事や、わたしを裸にして欲しがらせることを思いながら。

はじめに誘ったのはわたしだった。
正直、誰でもよかった。
理由はわたしにある。
あなたにではない。
うつむいたまま張り詰めた沈黙を経て、
「抱いて欲しい」と言えばそれでよかった。
ボタンを外し、ストッキングを丸めた。
口に含んで舌で転がし、直立したそれに自分を沈める。
させたいようにさせるだけ。
わたしは単に何かで欠落を埋めたかっただけだった。
重たいほうに落ちてしまうくらいなら、
例えばそれが誰かを傷つけたとしても、
自分自身をなにかにつなぎとめておくことが出来ればそれでよかった。

あなたはすぐに愛してるかを聞く。
わたしは「きっと」としか答えない。
たぶん愛してないから。

3月をバースデーにしたのはあなたのため。
あなたは繊細なリングを買った。
痛い人。
少し泣いたのは自分のため。
すべて消えちゃえばいいのにと思う。
あなたの見ているわたしの幻想も傷つけた過去も全部。

時計はとうに15:00を過ぎた。
あと何本かタバコを吸い、あなたは多分わたしに電話をかける。
そしてナンバーもアドレスも使われていないことに気づいて眉をしかめることになる。
悪いイタヅラかもしれないって、どこかで笑ってるはずのわたしをキョロキョロと探し始めるんだろう。
でもそれで終わり。
汚れは汚れで拭き取るもの。
そんな風にしか、わたしはわたしでいれなかった。
あなたは深く傷つき、自分を哀れみ、わたしを呪うだろう。
でも、それがわたしだった。
汚れた昨日のわたしだった。

知らない終着までゆく電車で北へ向かう。
頭が重い。
なにも食べたくない。
夜に独りで揺れてる。
そんな風にして今日は過ぎていった。

知らない町。
小さなホテルで目を覚ます。
時計は夕方に近く、空は灰色だった。
鏡の中の顔は自分に見えなかった。
お湯で顔を洗って、明るい紅をのせてみる。
それでも昨日より少し歳を取ったようにみえた。

服を着て、海岸へ向かうバスに乗った。
とても海が見たかった。
むかし家族と行った砂浜はどこへ消えてしまったんだろう。
17で家を出たきり思い出したことはなかった。
台風が去った次の日の朝。
海は痛いくらいまぶしかった。
笑ってるわたしがいる。
おかあさんもいる。
おとおさんは難しい顔して釣りをしてる。
あたしは石をひろうことに夢中だった。
家族だった。
わたしはきちんと子供でいれた。

戻りたい。
素直に笑ってた頃に。
悲しいのか嬉しいのかよく分からない涙。
どっちでもいいって思う。
目を閉じれば、今も笑みはつくれる。
だいじょうぶよ、ママ。
ちゃんと幸せだから。

灰色の町。
雨が降っている。
窓の外の小さな商店街の向こうに海が見えた。
コインを投げてバスを降りる。
誰かがなにかを言ってるけど聴こえない。
わたしは笑ってるの。
しあわせだから笑ってるの。

坂道を下る。
商店街を曲がり古い住宅地を抜けて、
目の前の海に向けて坂道を下った。
髪をつたう6月の雨は優しかった。
張りついたブラウスも目にかかる髪もそう。
なにをかばう必要があるの?
もう遠くまで来たのに。
やっとここまで来れたのに。

わたしは海に向かう。
細いヒールを捨て、裸だしまま坂道を下る。
素直な笑みはそのまま。
いくつもの廃屋を越えてく…

静かに雨が降り続いていた。
6月の午後の雨だった。

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