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<気まぐれな休日の手紙/Y・K>
2007 / 07 / 04 ( Wed )

新緑、とは言えないか‥まだ。
その辺よくわからないけど、
ともあれ君のこと考えてた。
理由とかじゃなくて気分で。

こっちは雨が降っていて少し寒い。
でもキミの町はきっともっと寒いだろう。
夏だって少し寒いくらいだったから。

こじんまりした緑色の町。
二両だけのワンマンに乗って海沿いを離れ、
森と草原を抜けるとやがて小さな駅に着く。
町の中央には平和か何かを象徴するモニュメントがあって、
役場を中心にして、小さなビルが等間隔で並んでた。
知らない名前のコンビニ、古くて中の見えないメガネ屋、
君の勤めてた歯科の隣りには妙にモダンなバーガーショップ。

土曜の午後にボクはキミを待っている。

車で空港に向かうと地方特有の大型スーパーがあって、
シンボルにならない人気のない観覧車が回ってる。
知ってたか?
アレ見上げてるとさ‥なんか遠くへタイムスリップするみたいな、
妙な気分になる。
キミが手をつないでても、ボクは遠くからそれを見てるような。

とても晴れてて‥空が高くて、腰までの雑草が風に揺れてる。
トイレとか言ってキミが向こうへ行くと、ボクは駐車場で一人で。
キミが買った銀だこを一個つまんで風に浴びせながら、
ずっと観覧車を見上げてた。
自分の中に沸く不思議な孤独にくっついたり、
離れたりして、遊びながら。
すすー‥と重力を離れると感情は消えてく。
ボクの意識は観覧車の付け根のベアリングになる。
ただ青いだけの空を背景にして果てしなく回る、
終わらない‥運動?
なんだろ、うまく言えないけど。
文字どおり終わらない、運動。
大地とベアリングの中空あたりにボクは浮いてる。
視界は鮮やかなんだけど、周りは見えてない。
世界はほとんど無音に近い。

キミが帰って来る。
「なにしてるの?」とボクを大地から呼ぶ。
「‥べつになにも」とボクはモゴモゴと中空から答える。
でも意識をかき集めると、すぐにまた窮屈なボクになる。
「‥寒い」とボクは言う。
「そうかな?」とキミはあまり気にしない。
いつものように。

それから部屋に帰るとボクらはSexする。
オンボロのスキマを遮る重いカーテンを閉め、
その穴ぐらの中でボクらは上になったり下になったり、
逆さになったり、わけのわかんない格好になったりして、
くっついたり離れたりした。
我慢ついでにボクは観覧車のコトを考える‥終わらない、運動。
限りなく繰り返せば、本能は麻痺してくるけど、
ボクはその肉体にとどまっている限りでは孤独ではなかった。
たとえ部分であれつながりさえすれば充分に温かかった。
それが幸せと呼べるかは‥正直わかんないけど。

でも快楽とはちがう、それはなにかだった。

それからキミはカーテンを開き、
オレンジの夕日を部屋に入れると、
お湯を沸かして、コーヒーを2つ入れた。
そして夕飯になにを食べるかってボクに聞くんだ。
「作るよ、気が向けば」ってニヤニヤしながら‥。

‥中略‥

夜が更けると町は霧に包まれる。
起こさないように抜け出して駐車場まで来ると、
ボクは誰も知らない秘密の場所を歩いてる感じがしてた。
そこでは自分が生きてるとか死んでるとかってのは、
あまり大きな問題になる差異ではなくって、
ただ自由になること、それがボクを解放した。
ボクは駐車場でタバコを吸う。
そして魂のカケラみたいな火をつま先で消して、
部屋に戻り、キミの隣りで丸くなって眠った。

やがて朝になる。
太陽が霧の町をうっすらと染める頃、
キミはせっつくようにしてボクを起こす。
着替えて車に乗り、スルーして朝のマックを買い、
食べながら駅でボクを下ろすと、
笑いながらバイバイをした。

「じゃ行ってくる」とボクは言い、
「ガンバってね」とキミは答える。

そんな風にしてボクらは離ればなれになる。
ボクは東京に‥キミはその町に。

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

時がたてば記憶は極めて軽薄に、
別の要素と重なったりしてデフォルメされてく。
ともすればそこにボクらが打ち立て、広げようとした感情は、
純粋に単なる幻想のようで‥曖昧に滲んで映るけれど。
ふと思い出すんだ、キミを最近。
同じように中空に吸い込まれてくような孤独、も。
何でだろ‥弱くはないはずなのに‥。

わがままを言うタイミングを計る表情もそう、
好き嫌いを言うボクを不審がる悪意もそう、
無茶をして苦しんで黙って泣く意地もそうだし、
しゃがみこんでボクを見てる無邪気もそう。
そんな部分だけが残るなんて、まるで想像もしなかった。

折れない互いのわがままや、嘘や、迷いが、
ある日この世の最低最悪の武器になって、
柔らかな何かを決定的に切り裂いたとして‥、
今では不思議とそんな痛みすら愛しく思う。
懐かしく、思う。
ふと、コトバを思い出したりする。
こんな風に届きもしない手紙を書くくらい、
今ならば誠実に。

‥遠い昔に見た絵本みたく、目を閉じてめくると、
キミはまだあの小さな駅にいて、ボクに手を振るようで。

せつなく、微笑み。

今が幸せであればいい、と願う。

さよなら。

A to Y ‥気まぐれな2006年/春の休日に

 

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